泌尿器科の概要

名古屋医療センター泌尿器科は、名古屋大学泌尿器科教室の基幹関連施設として現在6名の常勤医師、3名の非常勤医師で診療、臨床医養成などの教育、さらに名古屋大学泌尿器科との連携で臨床研究を行っています。診療では男性下部尿路症状症候群(Male LUTS)・前立腺肥大症、過活動膀胱、尿失禁といった排尿障害、泌尿器がん治療、尿路結石、尿路感染症・性感染症を対象に、他の診療科や院内他職種のスタッフとチーム医療を行っています。件数は多くはないものの、骨盤性器脱をともなう女性の下部尿路疾患の診療も行っています。診療の中心となるがん治療では、ロボット支援手術、腹腔鏡手術といった低侵襲手術から、抗がん剤、分子標的治療薬、ホルモン治療を併用した進行がんに対する開腹・拡大手術まで対応しております。診療域は名古屋市中心部から北西部が主となりますが、域外からの紹介患者さんも来られており、地域のかかりつけ医院との連携診療も広く行っています。泌尿器疾患のお悩みがありましたら当院泌尿器科にご相談ください。

 

特色

尿路生殖器がん治療

① 前立腺がん

前立腺がんの診断
地域の前立腺検診あるいは健康診断で前立腺特異抗原(PSA)が高く、二次検診を要する方の相談、ならびに精密検査を行っています。過去に前立腺生検(組織検査)や定期的なPSA検診を行っている場合は、その検査結果があれば大変参考になりますのでお持ちください。当科ではMRIによる画像検査を参考に、前立腺生検が必要であれば1泊入院での組織検査を行っています。また、年齢による異常値の階層化、PSA上昇速度の分析などさまざまなデータ解釈から前立腺がんの可能性を検討して組織検査の是非を判断しています。当科にはMRI画像と生検機器とを連結する最新の検査システムはありませんが、上記のような検査精度を上げる工夫を行って診断しています。
前立腺がんが見つかった場合、病理組織の詳細な分析、画像検査、年齢(期待余命)、身体の活動性、併存症の有無、排尿・性機能など多くの要素を総合的に評価して、治療方針(監視療法=Active surveillance、手術、放射線治療、ホルモン治療、それらの組み合わせ)を策定しています。

前立腺がんの手術
当院では2014年1月よりda Vinciサージカルシステムによるロボット支援手術を開始しました。
前立腺がんは泌尿器がんの中で最も早く2012年に保険収載されました。直感的で繊細な鉗子操作と高画質の立体視による手術操作は、前立腺周囲の正常組織、とくに尿道周囲の横紋括約筋のダメージを最小にすることで尿道閉鎖圧の低下をできるだけ抑えるため、開腹手術や腹腔鏡手術に比べて術後の尿禁制が早期に回復します。また出血量も少なく、当院ではこれまでに約200例のロボット支援前立腺がん手術を行いましたが、輸血を行った例はありませんでした。一方で直腸損傷などの臓器合併症、前立腺周囲におよぶがんでは切除断端陽性例も一定の割合で起こるため、このような事例を減らすための試みとして、術前MRIの検査画像からがんの局在をスコア化して予測したり、術前病理所見や検査データから微小進行がんの可能性を予測したりすることで、手術の質を上げるよう取り組んでいます。根治性と機能温存を両立した良質な前立腺がん手術を目指していますが、それらのバランスを取ることが非常に大切であり、当科では安易な性機能・排尿機能温存はなるべく回避し、より根治性に重点をおいた手術を心がけています。

前立腺がんの放射線治療
当院での放射線治療は通常の外照射療法にしか対応できませんが、外照射以外の方法で治療する場合、陽子線治療は名古屋市立西部医療センター、密封小線源治療は名古屋大学医学部附属病院と連携して治療しています。また、進行がんで骨に転移がある場合の治療法として、「塩化ラジウムRa-223を用いたRI内容療法」がありますが、当院はこの治療の施設基準を満たしており、また疼痛緩和目的の外照射治療など、前立腺がんの転移部位に対する放射線治療も行っています。

前立腺がんの薬物治療
進行前立腺がんにはホルモン治療が行われますが、当院ではホルモン治療製剤も注射薬から内服薬までほぼすべての投薬を行うことができます。抗がん剤治療は外来治療が可能であれば腫瘍内科との併診で当院の外来化学療法室を利用して行い、また病気の進行度にかかわらず病状により痛み、苦痛を伴う場合は、疼痛緩和チームと共同して緩和治療も行っています。

前立腺がんの監視療法
総合的に評価して治療まで待機が可能であれば、当院あるいは連携医のもとで定期的なPSA、画像検査のフォローアップを行い、一定期間経過すれば再度病理組織検査が必要となる前提で監視療法も行っています。

 

腎がん

腎がんの手術療法
腎がんは近年他の病気の検査、検診などで偶然見つかることが多くなってきました。
早期腎がんに対しては手術が標準治療です。7cm以下の転移のない腎がんに対して行うロボット支援腎部分切除術が2016年に保険収載されました。現在小径腎がん(小さな腎がん)に対する標準治療は腎機能を温存した腎部分切除術です。保険収載前に行われた先進医療Bでの本術式が、がんの根治性としての指標(病理学的断端陽性)、機能温存としての指標(手術中の腎血流遮断時間25分以内)、手術合併症なしの3因子をすべて達成する割合(trifecta)が91%であり、腹腔鏡手術と比べて有意に高いことが証明されました。これまで腫瘍部位の腎臓を部分的に切除することが難しいとされてきた腎門部の腫瘍に対しても、ロボット操作により手術が容易となることが期待されています。当院ではロボット手術の術前シミュレーションとして医用画像データを計算解剖学の理論で解析することにより、腎動脈の確実な描出と適切な切除範囲の同定を試み、可能な腎臓に対しては選択的腎動脈遮断を行うことで、がんの根治と腎機能温存の両面から良質な手術を追求しています。
片側の腎臓を摘出しなければならない場合、進行度や体格を考慮して腹腔鏡手術を選択します。腹腔鏡手術が向いていない、あるいは開腹の方がより勧められる場合は開腹手術を行います。

腎がんの薬物療法
現在腎がんには分子標的治療、免疫療法が行われており、当科ではこれらの薬物療法に手術、放射線など複数の治療を組み合わせることで進行がん、転移がんに対する積極的治療を行っています。各種の分子標的治療薬、さらには新しい免疫治療薬であるニボルマブ療法、ニボルマブとイピリブマブの併用療法にも対応しています。転移がんであっても手術が有用であれば腎摘除術や転移巣の摘除を行い、近隣の病院の協力の下に脳転移へのガンマナイフ治療など連携医療も行っています。

③膀胱がん・腎盂尿管がん

膀胱がん・腎盂尿管がんの診断と治療
尿に血が混じる、検診で潜血があるといわれた、このような方には膀胱の内視鏡で精密検査を行います。腎臓の検査も必要とする場合は造影CTや腎臓のカテーテル造影なども行っています。

膀胱がんは表層型の「筋層非浸潤性膀胱がん」と、進行した「筋層浸潤性膀胱がん」に分類されます。筋層非浸潤性の場合は経尿道手術をまず行い、ミクロの浸潤がないかどうか、腫瘤以外の平坦病変がないかどうかを診断します。その後、膀胱内への薬物注入療法が必要であればこれを行います。

筋層浸潤性であれば、標準的な治療は全摘手術です。当院ではこれまで開腹で膀胱全摘手術を行ってきました。2018年の診療報酬改定でロボット支援膀胱全摘除術が保険収載されました。ロボット手術は腹部内臓が開放されないため、術中の出血、腹水、リンパ液、不感蒸泄などの体液喪失が少なく、また尿路変向が終わった時点での腸管の浮腫や運動制限が少ないことから術後回復が早まります。比較的早い段階の筋層浸潤膀胱がん、術前化学療法を十分行って制癌されている筋層浸潤膀胱がん、BCG治療に抵抗性の筋層非浸潤膀胱がんが対象となります。当科主任部長が前任施設でこの手術にも積極的に取り組んできており、2019年度からはロボット手術を保険診療で行うことが出来る施設に認定されることになっています。

腎盂尿管がんの手術は、進行度によって腹腔鏡手術、開腹手術またそれらの組み合わせを選択し、必要に応じてリンパ郭清も含め、なるべく低侵襲で根治性の高い手術を行うようにしています。

④ 精巣がん

精巣がんは、その施設の手術や抗がん剤治療の件数、抗がん剤合併症への対応能力が治療成績を大きく左右します。また、治療スケジュールの遵守、プランニングが病気の予後を決めるといっても過言ではありません。若い世代の病気であるだけに仕事や家庭との関わり、生殖能力の維持や確保といった病気の治療意外にも重要な要素が多く含まれます。よって、精巣がんはそれなりの治療に特化した施設で治療すべき病気といえます。当院では精巣摘出手術、後腹膜リンパ節郭清手術、転移巣摘除手術、各種抗がん剤治療に対応しています。また、名古屋大学医学部附属病院とも連携して情報共有しながら高質な治療レベル維持につとめています。

⑤ その他のがん・腫瘍の治療

きちんとした病理診断ができるよう、各科からの要望にも応えられるような診断治療技術をもって、副腎腫瘍に対する腹腔鏡手術、陰茎がんや後腹膜腫瘍などの希少がんの手術、原発不明の後腹膜腫瘤に対する生検などに対応しています。

 

排尿障害

泌尿器科には高齢で排尿にお困りの方が多く受診されます。脳血管障害、脊椎脊髄疾患など他の病気があり排尿に支障を来している方も来られます。夜間頻尿、過活動膀胱、低活動膀胱、前立腺炎症候群など、当院では他科からの相談も多く、排尿トラブルの診察も随時行っています。経尿道手術は標準的な経尿道的前立腺切除術(TURP:生理食塩液を用いる)のみに対応しています。低侵襲なレーザーを用いた核出手術(HoLEP)、蒸散術(PVPレーザー手術)は行っておりません。このような手術が勧められる場合には治療可能な施設を紹介し、連携して手術を行っています。女性の尿失禁、骨盤性器脱にも曜日は限られますが対応しています。家庭、施設、入院病棟で尿が出なくなった方への導尿指導、適切なカテーテル管理、リハビリ介入で元気になることでおむつ外しが出来る人もあり、そのための訓練など高齢者排尿トラブルへの相談も受け付けています。排尿の治療に使用されるくすりはほぼすべて処方可能です。

 

尿路結石・感染症・外傷救急疾患

当院は救急患者が多いことから、尿路結石、またそれにともなう尿路感染症の患者が多いという特徴があります。尿管ステント留置、経尿道的破砕術、経皮的破砕術、体外衝撃波破砕術いずれにも対応しています。結石ほか様々な原因で発症した重症尿路感染症には集中治療室や高度治療病室での治療も可能であり、救急受診患者に対する緊急対応も行っています。また、腎外傷や精索軸捻転(思春期以降)などの救急疾患にも迅速な血管内治療や緊急手術などで迅速対応しています。

 

当院で可能な治療

上述した泌尿器疾患以外にも、勃起不全や加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)といった男性機能への相談、成人の腎盂尿管移行部狭窄症・水腎症への腹腔鏡手術、不妊治療の原因となる精索静脈瘤への腹腔鏡下手術、尿膜管膿瘍への腹腔鏡下手術。保険治療以外では、勃起不全治療薬の処方、美容的包茎手術、避妊目的の精管切断手術にも対応しています。腎移植などの腎代替療法、性同一性障害へのホルモン治療や医療相談などには当院単独では対応できないため、主幹連携施設である名古屋大学医学部附属病院に紹介しています。また、小児泌尿器疾患は当院および名古屋大学医学部附属病院ではあまり対応していないことから、JCHO中京病院、名古屋市立大学病院、あいち小児保健医療総合センターに紹介しています。

 

さいごに

当院では、がん治療においては早期~中等度進行がんに対する低侵襲手術を軸に、また進行がんにおいては化学療法、分子標的療法、免疫療法などの薬物療法、放射線・手術の局所療法を融合し、総合的に質の高い医療を提供していくよう心がけています。また、近隣の医療機関とも密に連携し、皆さんにとって信頼できる有用な病院となるよう努めておりますので、泌尿器疾患の相談がありましたらぜひ当院を受診していただきたいと思います。参考資料として、直近3年間の主な手術実績を掲載いたします。
※日帰り手術、件数の少ない手術、稀な病気の手術は除いてあります。

 

臨床実績

主な手術実績
2016年度 2017年度 2018年度
検査 前立腺生検 139 130 137
手術 結石 PNL 1 33 7 53 4 80
TUL 16 35 61
TUCL 16 11 15
ESWL 91 84 47
TUR-BT 147 131 125
TUR-P 25 28 14
腹腔鏡下 副腎摘除 0 2 3

腎尿管悪性腫瘍術(腎摘,腎部分切除,腎尿管全摘)

20 13 13
腎盂形成術 0 0 3
開腹 腎摘除術 5 10 4
腎尿管全摘術 1 4 3
腎部分切除術 4 0 2
膀胱全摘徐術 9 8 9

ロボット

RARP 26 23 57
RAPN 6 11 14

PNL:経皮的腎砕石術
TUL:経尿道的腎尿管結石破砕術
TUCL:経尿道的膀胱砕石術
ESWL:体外衝撃波結石破砕術
TUR-BT:経尿道的膀胱腫瘍切除術
TUR-P:経尿道的前立腺切除術
RARP:ロボット支援前立腺全摘術
RAPN:ロボット支援腎部分切除術

 

名古屋医療センター泌尿器科の主な地域連携クリニック

① 北名古屋市
きむら泌尿器科・腎臓内科クリニック(木村恭祐院長)
URL:http://www.kimura-uro-clinic.com/
② 名古屋市北区
上飯田泌尿器科内科クリニック(平林崇樹院長)
URL:http://kamiiida.com/
③ 名古屋市千種区末盛通5-3 メディカルビル2F
本山腎泌尿器科 ゆうクリニック(伊藤裕一院長)  052-761-1155

 

名古屋医療センター泌尿器科の連携施設・協力施設(図)

名古屋大学泌尿器科専門研修プログラム運用施設