腫瘍内科の概要

  腫瘍内科はがんの診療に特化した内科の一分野です。腫瘍内科の仕事はがんの診断や薬物療法(抗がん剤治療、免疫療法、分子標的療法、ホルモン療法など)、痛みを始めとした様々な辛さや問題を和らげるサポート(緩和ケア)、複数の治療(手術、放射線治療、薬物療法など)から最適な組み合わせを考えるために各診療科の橋渡し役になるなど多岐に渡ります。当科は名古屋市・愛知県・東海地域はもとより全国的にも数少ないあらゆる臓器のがん診療に対応可能な腫瘍内科として活動しています。

 近年の薬物療法の傾向として、各領域それぞれ新たな新薬・治療法が登場し複雑化しており薬物療法の専門家のもと治療を受けることが推奨される状況であること、大半の治療が通院治療で可能となったこと(仕事や趣味との両立も可能なことが多いです)などがあげられます。その時代においてもっとも良い治療を関連する診療科と連携して行うこと、治療面では薬物療法を中心に患者さんを支え、応援するのが腫瘍内科医の重要な仕事です。院内での協力体制の結果、通院化学療法の50%、のべ3000件の通院化学療法を腫瘍内科が担当し(2022年度実績、点滴治療例のみ)、成人固形腫瘍のほぼ全ての領域に腫瘍内科が関わるようになっております。

 当院はがん診療連携拠点病院・がんゲノム医療連携病院に指定されており,消化器(胃・食道・小腸・大腸,肝臓・胆道・膵臓)、呼吸器(肺・縦隔)、乳腺(乳がん)、婦人科(卵巣、子宮体部・頸部)、泌尿器科(腎臓、膀胱・尿管、精巣)、血液、脳神経(原発性・転移性脳腫瘍)、眼科、頭頸部(口の中,咽喉頭)にできたがんに対応できる体制を整えています。この他、原発不明がん、希少がん(患者数が少なく治療法やガイドラインが整備されていないような疾患)、重複がん(2つ以上のがんがある例)、精巣腫瘍・精巣外胚細胞腫瘍、肉腫など幅広いがんの治療に取り組んでいます。救命センターをもつ総合病院の強みを生かしてがん以外の合併症(糖尿病、腎臓病、心臓病、脳梗塞、自己免疫疾患など)がある方の治療にも積極的に取り組んでいます。地域の医療機関の他、がん専門施設からもたくさんの患者さんをご紹介いただき診療しています。

特色

名古屋医療センターの腫瘍内科の特徴、理念を下記にまとめました。

1. 診療科の枠・施設の枠を超えて迅速な診断、そして最適な治療法を考えます

 腫瘍内科は各診療科とカンファレンス(病気の診断、治療に関する相談会)、キャンサーボード(各領域の専門家が集まり対応が難しいケースの対応を検討する会)を行い最適な治療計画を検討しています。特に、診断に関わる医師(内視鏡やCT・MRIなどの専門家、がんを顕微鏡レベルで診断する病理診断医ら)、外科系診療科(手術を担当する医師)、放射線治療科(放射線治療の専門家)、緩和ケアチームとは定期カンファレンスの枠を超え随時検討を行っています。
腫瘍内科では治療方針が決定するまでの不安な時間がなるべく短くなるように務めています。例えば初診日に診断・治療に必要な検査計画を立て、可能な検査は当日受けていただけるようにしてます。診断が済んでいない場合はがん細胞を採取して顕微鏡レベルで診断することが重要です。当院では、内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ・気管支鏡、いずれも超音波を使用した高精度・高難度の生検検査が可能)、CTガイド下生検(CTを撮影しながら患部に針を入れて細胞を採取する方法)、外科的生検(手術による細胞採取)が可能です。
必要時には院内外・国内外を問わず最新の情報、意見を集め診断・治療を進めます。名古屋大学病院とはがんゲノム医療に関する検討会(エキスパートパネル)を通じて、愛知県がんセンター薬物療法部とは定期的な症例検討会を通じて診療の質の向上を心がけています。また、患者さんが希望された場合にセカンドオピニオンの手配をサポートすることはもちろんのこと、患者さんの利益になると判断された場合は自施設にこだわらず最適な施設をご紹介いたします。

2. 患者さんの生活や個別性に配慮した医療の実践

 これまでに行われた研究やデータによって裏付けられた標準治療(最も治療効果が得られる可能性が高いその時点での最適な治療法)を基本としつつ、患者さんの年齢や仕事、家庭の状況など希望にそった治療を提案します。当院はがんゲノム医療連携病院に認定されており適応となる方には保険診療で遺伝子パネル検査の実施が可能です。がんゲノム医療は治療選択肢を得るきっかけにもなるため積極的に実施しています。

3. 総合病院のなかにある腫瘍内科であること

 当院は救急医療・総合診療体制を擁する総合病院です。がんは経過中に救急対応(急な発熱や呼吸困難、重篤な感染症や緊急手術を要する問題)や対応が難しい副作用対策(心臓疾患、肺炎、自己免疫疾患、免疫関連有害事象など)が必要になることがあります。最適ながん診療はがん治療医のみで行えるものではありません。様々な臓器の問題(心臓、脳・神経、糖尿病、リウマチなど)に対応できるバックアップ体制や24時間365日の救急医療(当院の救急外来・集中治療室は専門医が運営・指揮をしています)が充実していることはとても安心・安全ながん治療を受けるうえで極めて重要です。

4. よりよいがん診療や新薬の承認に貢献する臨床試験・治験への参加

 がん治療は徐々に進歩していますが、疾患の種類や状況によっては未だ満足するには至っていません。当科ではがん診療の向上に貢献するため、患者さんの治療選択肢を増やすために臨床試験や新薬の治験に参加することも提案することがあります。当院はすでに多くの臨床試験や治験に参加した実績があり研究施設としての側面があります。これは、最新の知見を取り入れ、新薬の開発動向をキャッチアップするためにも重要なことです。

診療

【診療内容】
腫瘍内科専従医、腫瘍内科・緩和ケア科の兼任医師(がん薬物療法専門医を含む)で診療にあたっています。現在、成人の悪性腫瘍であれば種類を問わず原則対応可能ですので、お気軽にご相談下さい。手術前後の補助薬物療法、進行・再発・難治がんへの治療など幅広く行っています。放射線治療科と連携した化学放射線療法の実績も豊富です。治療開始前に十分な全身評価、画像診断、病理診断、遺伝子検査などを実施してから実際の治療計画を提案いたします。また、緩和ケアチームとの連携を密にし、外来・入院中を問わず必要なケアがタイムリーに届くように努めております。

診療実績のある代表的ながんの種類と薬物療法の概要

 当科では各種がんの診療、特に薬物療法を担当しています。どのがんであっても最近の進歩が著しく、新しい薬剤や投与法が盛んに導入されています。共通して言えるのは①がんの特徴を詳しく調べること(遺伝子検査、免疫染色など)、②体の状態を評価すること、③がんの拡がりを把握すること、④それぞれの専門家(手術=外科系診療科、検査、診断、薬物療法=腫瘍内科、放射線治療=放射線治療科、緩和ケア、リハビリや栄養療法など)が協力して一人の患者さんの治療に関わることです。ここでは各種がんについて薬物療法を中心にまとめています。

乳がん

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消化器がん(胃・食道・大腸・肝胆膵)

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肺がん・縦隔腫瘍

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婦人科がん (子宮がん、卵巣がん、胚細胞腫瘍)

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泌尿器がん(膀胱・前立腺・腎臓・精巣腫瘍)

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頭頸部がん

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原発不明がん

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肉腫、性腺外胚細胞腫瘍、悪性黒色腫など希少がんの治療

眼科領域のがん(悪性黒色腫、メルケル細胞がんなど)に対する化学療法

重複がんの対応(2つ以上のがんを患っている方)

MSI-H(マイクロサテライト不安定性を有する)がんに対する免疫チェックポイント阻害薬

(上記以外のがんであってもできるだけ、対応するよう心がけております)

【チーム医療の重視】

 実際の診療は腫瘍内科医師に加えて、がん化学療法認定看護師、がん薬物療法認定薬剤師、臨床心理士、管理栄養士、緩和ケアチームからなるチーム医療を最重要視しています。外来化学療法室で治療を受ける患者さんについて毎朝ミーティングを実施しています。2023年より従来の医師・看護師・薬剤師に加えて、臨床心理士と管理栄養士が加わることでより一層の充実をはかっています。

 通院でのがん治療(外来化学療法など)は日常生活を続けながら、治療が受けられる点でメリットは大きいのですが、自宅にいる間の副作用対策に関して理解をしていただいて治療を受けることが重要になります。その際、どこに注意したらよいのか、困ったときにどこに相談すればよいのか? 医師だけでなく、各領域のスペシャリスト(がん化学療法認定看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど)があなたの治療をサポートする体制ができています。例えば、病気や治療のため食事や栄養に悩まれる方には管理栄養士が、臨床心理士による気持ちの辛さや悩みへに関するカウンセリング、心理療法などを行っております。加えて、各種制度の申請、経済的な不安、自宅療養に必要な訪問看護・介護の利用などは相談支援センターでのサポートをご紹介するなどしています。

【外来化学療法室】

 抗がん剤治療の大半は通院で治療が可能です。外来化学療法室には腫瘍内科医、看護師、薬剤師が常駐しており、随時、情報を共有しながら診療しています。腫瘍内科の診察室を外来化学療法室内に設置することで、患者さんの移動の手間を減らし、スタッフ間の連携強化をはかり抗がん剤投与中の問題にも速やかに対応できるように工夫しています。医師の診察のみでは聞き取れなかった生活の困りごとや副作用を看護師が確認し、医師へフィードバックする、薬剤師が治療薬や内服薬の確認をし、適切な使用法のアドバイスや支持療法について医師と相談するなどキメの細かいケアを目標にしています。

医療関係者の方へ

医療連携について

     

 ご参考までに当科の対象疾患、得意とする領域を列記いたしますが、悪性腫瘍と診断されていれば原則的に全ての方を対応させていただきます。悪性疾患が疑わしい場合、確定診断前のご紹介でも問題ございません。検査・生検から治療まで責任をもって手配いたします。(腫瘍内科のご案内

各種がんの薬物療法のご相談・ご紹介(臓器を問いません)
乳がん、消化管がん、肺がん、原発不明がんは特に注力しております
化学放射線療法の適応疾患(肺・食道・頭頸部など)。関連科と連携します。
・胚細胞腫瘍、肉腫などの希少がん。治療計画が特に重要な疾患が多くあります。
(疑い例・初回治療前・生検前からのご紹介が望ましいことが多いです)
・原発不明がん、重複がん
・免疫チェックポイント阻害薬,複合免疫療法(ニボルマブ・イピリムマブ併用療法など)、エンハーツ療法など慎重な管理や施設要件がある薬剤での治療
・がん薬物療法に関するセカンドオピニオンに対応しております

当科を初めて受診される場合、 地域医療連携室 を通じて予約を取得してください。事前に検査データ等を提供いただけますと助かります。医療機関からはお電話でのご相談もお受けしております。

地域医療連携室
受付時間:平日:8:30-17:00
TEL:直通052-951-1206、もしくは代表052-951-1111から内線2231

教育・研修

【講習会】毎年、12月~1月下旬に「がん化学療法・放射線治療に関する研修会」を開催しております。院外から参加される方もおられます。症例検討を行い、化学療法・放射線治療の概要を理解する半日のコースです。近年は医師に限らず看護師、薬剤師、リハビリスタッフ等多職種をお迎えしております。ぜひ、ご参加ください。また、緩和ケア講習会(PEACEプロジェクト)も定期開催されています。

【講演会】院内でがん診療、化学療法に関連した講演会が開催されています。

【常勤医師・専修医/後期研修医】今後ますます高度、複雑化していくがん診療・がん薬物療法に貢献する熱意のある方を募集しています。腫瘍内科での研修を希望する方は下記リンクを御覧ください。初期研修医、内科専攻医(内科専門医コース)の方も腫瘍内科のローテーションが可能です。内科専攻医は関連する内科の研修完了後、腫瘍内科にFIXしてさらに研修継続が可能です。当院内科専攻医は院外研修先として愛知県がんセンターや国立がん研究センターでの研修が選択可能です。新専門医制度開始以降、院内の初期研修医から3名、院外から6名の医師が腫瘍内科医を目指して当院の内科専攻医プログラムに登録し研修をしています(2023年4月現在)。内科専門医コース外・内科認定医もしくは専門医を取得している方は腫瘍内科単独の研修が可能です。当院は日本臨床腫瘍学会の認定教育施設であり、過去にがん薬物療法専門医を10名輩出しています。

名古屋医療センター腫瘍内科研修のご案内(PDF)
初期研修医の方へのメッセージ(PDF)
後期研修医の方へのメッセージ(PDF)
後期研修医の方向けの詳細(PDF)
業績・学会発表(EXCEL)