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はじめに
医療者・研究者にとって、提供した医療サービスによって患者さんが健康をとりもどし社会で活躍する姿を見ることは何より幸せなことです。
多くの基礎研究者や医療者及び当事者の努力によって、現在、人はヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus(以下HIV)に感染しても、HIVに感染していない人と同等の生活を送ることができるようになりました。私たちは、HIV感染症に関わる医療者・研究者として、当院に通院しながら社会で活躍するHIVと共に生きる人々を支え共に生きられることを本当に嬉しく思っています。
簡単ではありますが、名古屋医療センターでHIV感染症/後天性免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome(以下AIDS))の診療と研究に取り組んでいる、名古屋医療センターエイズ治療開発センター(Center for AIDS Research, Education and Supports(以下CARES))の紹介をさせていただきます。 -
エイズ治療の拠点病院の歴史
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下感染症法)」に基づき策定された「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(以下エイズ予防指針)」は、HIV感染者/AIDS患者に対し、エイズ治療の拠点病院(以下拠点病院)を中心に、全ての医療・福祉施設で適切な医療を提供することを求めています。
拠点病院は、1993年、HIV感染者およびAIDS患者(以下HIV陽性者)が安心して医療を受けられるようにすることを目的に、厚生省(当時)から各都道府県宛に通知がなされ整備が開始されました。1997年には、1996年の薬害エイズ裁判の和解を受け、薬害被害者の救済医療を始めとするHIV感染症診療水準の向上及び地域格差是正を目的に、国立国際医療センター(当時)エイズ治療・研究開発センター(AIDS Clinical Center: ACC)とともに全国8地方ブロックに地方ブロック拠点病院(ブロック拠点)が整備されました。さらに2006年、エイズ予防指針改正を機に、HIV陽性者が各都道府県内で良質かつ適切な医療を受けられるようにすることを目的に、中核拠点病院制度が創設され、各都道府県内の拠点病院の中から中核拠点病院(中核拠点)が選定されました。 -
東海ブロックのエイズ治療のブロック拠点病院及び愛知県の中核拠点病院として
当院は愛知、岐阜、三重及び静岡4県からなる東海ブロックのブロック拠点病院として、また、愛知県の中核拠点病院として、CARESを中心に、HIV感染症/AIDSの診療、研究及び社会に対する最新で正しい知識の普及啓発に取り組んでいます。
CARESとは
CARESは、感染症内科を中心とした診療部門と臨床研究センター感染・免疫研究部を中心とした研究部門から構成され、連携してHIV感染症/AIDSの診療・研究に取り組んでいます。厚生労働省、文部科学省、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のHIV感染症/AIDS関連の採択された研究を国内外の研究者・医療者と共に行うと共に、多くの新たな抗HIV剤の国際臨床試験にも積極的に参画するなど、HIV感染症/AIDSの研究や診療の進歩に貢献しています。 -
診療部門
当院の感染症内科は国内で五指に入る診療実績を有します。全診療科、看護部、薬剤部をはじめ院内全ての部門からの支援を得て、HIV陽性者がHIVと共に生きそれぞれの資質を社会で発揮できるように、「HIV陽性者の考えと医療者の考えが一致するように双方の考えを尊重しあうこと(コンコーダンス)」を基本姿勢とし、医療・福祉サービスを提供しています。また、厚生労働省、愛知県及び名古屋市と連携して、HIV感染症/AIDSに関する知識の普及に努めるとともに、HIV検査の機会提供にも積極的に取り組んでいます。 -
研究部門
臨床研究センター感染・免疫研究部は感染症研究室と免疫不全研究室から構成され、国内でも非常に限られたHIV及び関連病原体の研究に取り組んでいます。特にHIV-1の複製を強力に抑制するヒトAPOBECタンパク質の研究や、HIVの抗HIV剤に対する薬剤耐性に関する研究は国際的にも高く評価されています。また、名古屋大学医学部大学院の連携大学院でもあり、当院の名古屋大学大学院医学系研究科免疫不全統御学講座では、ベッド(臨床現場)とベンチ(基礎研究施設)が近密に連携している研究環境下で医学修士・博士を取得することができます。 -
CARESを積極的にご活用ください
優れた治療薬の開発により、現在、HIVに感染しても医療者と共に人生を歩めば、HIVと共に、非感染者と全く同様に生涯を送ることが可能になりました。しかし、現在もなお、多くの人々にとって、HIV感染症/AIDSに対する認識は、1980年代の「死の病」、「特別な病」、「日常生活でもかかる恐ろしい感染症」のままであり、残念なことにHIVと共に生きる人々は、社会で非常に強い差別偏見に晒されています。
CARESでは、随時、見学などの受入を行っています。当センターの見学を通じて最新のHIV感染症/AIDS診療・研究の現場に触れて医学の力を認識していただくと共に、HIVと共に生きる人々の支援やHIV感染症/AIDSの課題克服のための取り組みに参画していただきたいと思います。
また、みなさんのHIV感染症/AIDSに関する認識の向上や知識のアップデートに、私たちの知識、知見及び経験をお役立てください。 - エイズ治療開発センター センター長
横幕 能行
見学についてのお問い合せ先
電話:052-951-1111(代表)から専門外来(内線:2567/2568)へ
講演依頼等についてのお問い合わせ先
E-mail: yokomaku[at]nnh.go.jp ([at]を@に変えたものがEメールです)