乳がん

 早期乳がんは、ご病気の手術のタイプや状況に応じて補助薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、ホルモン療法など)や放射線治療を行うことがあります。また、進行例(切除不能・術後再発)では薬物療法が治療の主体となります。乳腺外科と定期的に乳がんカンファレンスで情報共有しつつ治療計画をたてています。また、関連する病理診断科、放射線治療科、放射線診断科とも定期的にカンファレンスを開催し、全体的な治療方針を常に最新のものにアップデートするよう努めています。腫瘍内科は術前・術後の補助薬物療法と進行・再発例の治療を担当しております。

  • 早期乳がん(術前・術後補助療法):手術後にホルモン療法のみが推奨される方以外は原則、腫瘍内科で薬物療法を行っております。近年、著しい進歩が見られ、患者さんの病気のタイプや病状、お考えにもとづき最適な方針を決定するように心がけています。そのためには乳腺外科・病理診断科・放射線診断科による正確な診断と腫瘍内科が連携して1例ずつ方針を検討することが重要です。
     薬物療法の種類は病理診断結果、ホルモン受容体・HER2タンパクの有無、年齢・月経の有無、患者さんの希望に応じて、1) ホルモン療法のみ、2) 化学療法のみ(トリプルネガティブタイプでは免疫チェックポイント阻害薬を併用)、3) ホルモン療法+化学療法、4) ホルモン療法+化学療法+抗HER2療法、5) 化学療法+抗HER2療法の中から選択されます。
     トリプルネガティブタイプ、HER2陽性タイプの場合は、積極的に術前薬物療法を行い、手術検体による病理診断をもとに追加治療や内容を詳しく検討しています。
     2022年からトリプルネガティブタイプの方は術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)を追加することが可能になりました。術後治療にも進歩が見られアベマシクリブ(ホルモン受容体陽性かつリンパ節転移個数などに応じて)、オラパリブ(BRCA遺伝子変異陽性例)、カペシタビン(術前治療後にがんが残っている場合、特に、トリプルネガティブタイプ)、S-1(ホルモン受容体陽性の場合)といった薬剤が導入されました。化学療法は再発リスクに応じて、TC療法、FEC療法+ドセタキセル療法、ドーズデンス化学療法(dose dense EC療法+ウィークリーパクリタキセルもしくはdose dense パクリタキセル療法)を取り入れ、患者さんごとに使い分けております。抗HER2療法はリンパ節転移の有無に応じてトラスツズマブ/ハーセプチンのみ、ペルツズマブ/パージェタ併用療法、T-DM1/カドサイラ(術前化学療法実施後の手術でがん細胞が残っている場合)を行っています。
     当院は放射線治療装置・放射線治療科がございますので、自施設にて補助放射線療法が可能です。
  • 進行・再発乳がん:ホルモン受容体の有無、HER2タンパクの有無、BRCA遺伝子変異の有無、PD-L1発現の有無(トリプルネガティブタイプに限る)といった腫瘍の特徴と病気の広がりや状況、患者さんの希望を総合して治療を決めています。
     治療には従来型の抗がん剤(アンスラサイクリン、パクリタキセル、ナブ・パクリタキセル、ドセタキセル、S-1、カペシタビンなど)、抗HER2薬(トラスツズマブ/ハーセプチン、ペルツズマブ/パージェタ、T-DM1/カドサイラ、トラスツズマブ・デルクステカン/エンハーツ)、血管新生阻害薬(ベバシズマブ/アバスチン)、免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ/テセントリク、ペムブロリズマブ/キイトルーダ)、ホルモン療法薬(レトロゾールやアナストロゾールなどのアロマターゼ阻害薬、タモキシフェン、フルベストラントなど)を使用します。ホルモン療法では分子標的薬であるCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ/イブランス、アベマシクリブ/ベージニオ)、エベロリムス/アフィニトールなどを併用することがあります。他、BRCA遺伝子変異のあるHER2陰性乳がんの場合、オラパリブ療法の適応があります。
     進行・再発例の治療成績は徐々に改善しつつあり、また、サポート体制の工夫によってほとんどが通院で、家事や仕事を続けながらの継続が可能になりつつあります。