緩和ケア内科の概要
緩和ケア科は、主に患者さんやご家族の苦痛の緩和に携わっています。緩和ケアというと、私には関係ない、最後の医療だろうからかかわりたくないとおっしゃる方がまだまだ多いのが現状ですが、私たち緩和ケア科では、病気の経過のどの時期であろうが、からだの痛みだけでなく、こころの痛みや、日常生活や仕事等生活全般にかかわる気がかり、生きる意味や価値にかかわる悩み(実存的な痛み)に関して、皆さんと一緒に考えながら対処をしていけるように心がけています。しかし、こういった多岐にわたる苦痛・悩みに対処する際、単職種の目から見るだけでは対処のできないことも多くあります。当院では様々な職種がそれぞれの専門分野を生かして、患者さん・ご家族の持ついろいろな苦痛・悩みを和らげることのお手伝いをさせえていただきます。こういった様々な職種が集まって、みんなでその患者さん・ご家族の苦痛を和らげようとする取り組みこそが、緩和ケアであり、そのために集まっている多くのメンバーの集まりを緩和ケアチームといいます。緩和ケアチームのメンバーの最小単位は、身体担当医師、精神担当医師、看護師、薬剤師ですが、その他にも、医療社会福祉士(医療ソーシャルワーカー(MSW))、臨床心理士、理学療法士、栄養士等が治療やケアにかかわります。
特色
様々な痛みや苦痛に対して対応させていただいています。ひとは様々な苦痛を抱えて暮らしています。特に病を患いながらの生活は時として苦しいものです。当院では、患者さんやご家族が、その人らしく過ごせるためのお手伝いをさせていただくための緩和ケア科および緩和ケアチームを設けています。
からだの苦痛(痛みをはじめとして息苦しさ、吐き気、だるさ等)も、気持ちのつらさも、病による日常生活や仕事上の支障も、存在や意味の消失に伴う苦痛も様々な状況で生じます。これらに対しては、主科の主治医と相談して病状の進行度、全身状態を把握しながら、よりよい方法を考えることによって苦痛を緩和します。
からだの痛みに対してはその痛みを評価した上で、適切と考えられる鎮痛剤を主治医チームに対して推奨します。この際には主に身体症状担当医師と看護師、薬剤師がかかわります。
精神的苦痛に対しては、その原因となる気がかりを患者さんご本人からお聞きし、一緒に解消できるように支援します。もちろん解決困難な気がかりもありますが、その場合は苦痛の軽減を図るように努めます。精神担当医師による精神療法や薬物療法が主となりますが、アロマセラピーも有効な場合があります。精神症状担当医師のほか、看護師、心理士、薬剤師、身体症状担当医師等が一緒に対応します。アロマセラピーは認定アロマセラピストが行います。
社会的苦痛の中で、たとえばご家族のことや退院後の療養の場所についての気がかりの場合には、精神的苦痛と同様に具体的に探索し、医師、看護師、心理士、MSWほかが対応します。仕事や生活に関する相談もお聞きします。また、お子様にどう伝えようか、またどのように接していけばよいのかわからない、あるいはお子さんのご様子が最近気になるなど、お子さんのことでお困りの時にはチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)もかかわります。
スピリチュアルペインは実存的苦痛とも訳されます。自分の人生はいったい何だったんだろうか、このような状況で生きている意味はあるのだろうか、などといった実存に関する悩み、あるいは死への恐怖や自責の念といった苦しみなどが含まれますが、医師、看護師、心理士ほかがそれぞれの立場からその苦しみを和らげ、軽くし、なくするためのケアを皆さんとともに行います。
患者さんが治療を受けながら日常の生活を送れるように支援する上で大切なことは、患者さんご本人の気持ちに寄り添うということです。今はいろいろな治療法があり、治療医からは様々な治療法の提案があります。その説明を聞いたうえで、患者さんご本人に自己決定していただくことが多くなっています。私たちは、治療の方針決定に関しても、これからの過ごし方に関しても常に患者さんとご家族に寄り添って限りなくベストな選択ができるようなお手伝いをしたいと考えています。
また緩和ケアは時期を問わず提供されるべきものです。病気の診断時から主科の担当医と協力して治療に当たりたいと考えています。人生の最終段階でのケア(いわゆる終末期のケア)は、緩和ケアの一部ではありますが、かならずしも看取りの医療だけが緩和ケアではありません。
苦しいのは必ずしも患者さんご本人だけではありません。患者さんのご家族も同様に、または時としてご本人以上に苦痛を感じる場合が少なくありません。当院ではご家族の苦痛のケアも行います(家族ケア、家族外来を緩和ケア外来の中で行っています)。また大切なご家族を亡くされたご家族のケアも行っています(グリーフケアなど)。
緩和ケアは実はがん患者様にだけ提供されるものではありません。非がん患者様の制御困難な疼痛、HIV患者様の苦痛にも対応します。当院緩和ケア科では、帯状疱疹の神経痛についても院内の他科からのコンサルトに応じて診療しています。HIVに関しては他に専門部署がありますので、まずそちらを受診していただくことになります。
臨床実績
入院患者さんにおける緩和ケアチームへの診療依頼件数は、平成24年が349件、平成25年が401件、平成26年が373件、平成27年が464件、平成28年が405件、平成29年が443件、平成30年が480件、令和元年が626件、令和2年が703件と近年増加傾向にあります。 この数年の緩和ケアチーム依頼内容の動向をみてみますと、療養調整と疼痛がほぼ同数を占め、次に、精神症状や栄養のサポートなどとなっております。また家族ケア(がんの親を持つ子供のケアなども含めた)の依頼なども多くなってきており、その重要性も徐々に大きくなってきているものと考えられます。 令和2年度に依頼を受けた科は、多い順に腫瘍内科、呼吸器内科、外科、消化器内科、泌尿器科となっております。
緩和ケアチームでは、患者さんはもちろん、ご家族のケアも同時に行っています。入院・外来問わず、緩和ケアをいつでもどこでも切れ目なく提供できる体制を整えております。
また、治療前、治療中の患者さん・ご家族のための、これからの治療・療養・生活等に関する意思決定などに関しても一緒に相談に乗らせていただき、その支援を行っております。