歯科口腔外科の概要
「口腔外科学」は歯科医学の一分野で、対象とする疾患は口腔領域の先天奇形(口唇口蓋裂など)、過剰歯や位置の異常の智歯(親知らず)、顎顔面領域の感染や炎症、外傷(顎顔面骨の骨折)、唾石症などの唾液腺に関わる疾患、そして口腔領域に発生した良性や悪性腫瘍(口腔がん)など様々です。また、保存的治療が主体ですが顎関節症や口内炎などの口腔粘膜疾患、味覚の異常なども診療の対象です。言い換えれば、う歯(虫歯)や歯周炎などの一般的な歯科疾患を除く口腔領域全般の疾患を扱うと言えます。
本院のような「歯科口腔外科」は口腔領域における二次医療機関であり、基本的に初診は一般歯科医院あるいは医院などから紹介いただくことになっています。ほとんどの口腔外科疾患の診療に対して当科で完結するように努めていますが、まれな疾患で対応が困難なものについては名大病院等との連携を図っています。逆に、う歯や歯周病のように必然的に一般歯科医院での治療が適切と判断されるような時には、当科から紹介させていただきます。なお、通常の歯科治療でも全身的疾患などにより一般の歯科医院での治療が困難な場合には可及的に対応しています。ちなみに当科は歯科医師卒後臨床研修施設であるとともに(公社)日本口腔外科学会認定研修施設、(一社)日本有病者歯科医療学会認定研修施設です。なお、口腔外科疾患に対する診療レベルを担保するために、常勤医は全員が(公社)日本口腔外科学会専門医以上の資格を有しています。
当科の歯科医師卒後臨床研修は、名古屋医療センターの特色を踏まえた臨床研修を行っています。歯科医師卒後臨床研修については下記アドレスまでお問い合わせください。
E-mail:oda.tomoo.kf@mail.hosp.go.jp
特色
最もポピュラーな智歯の抜歯から口腔がんまで、治療に際しては十分なインフォームドコンセントを得ることが大切と考えています。特に口腔がんにおいては、構音機能、咀嚼、嚥下機能への影響、顔貌の変化などの後遺症も十分考慮しなければいけません。それゆえ、治療方針を決めるにあたっては単純に寿命を伸ばすことだけではなく、後遺症を予測し、生活の質に対する影響を理解していただくことが重要と考えています。
当科は歯科領域と医科領域の架け橋もしくは調整役も果たしています。全身疾患の種類や程度、治療内容によっては通常の歯科治療を受ける時に注意が必要になるからです。例えば骨そしょう症の治療薬であるビスフォスフォネート系の薬剤を投与されている方や循環器疾患などのため血液を固まりにくくする薬(ワーファリンやバイアスピリンなど)投与されている方の抜歯なども少々注意が必要です。これらのような治療を受けてみえる方の医療情報を十分把握して、安全な歯科治療を受けるための相談や協力をさせていただきます。また、昨今注目されている周術期等口腔機能管理に対しても周辺の歯科医師会と協働して取組んでいます。
さて、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」という疾患名を耳にされたことがあると思いますが、本人の健康を害するのみではなく、いねむり運転の原因として社会的影響も及ぼしかねない疾患です。その治療法の一つに口腔内装置の装着があります。その製作も当科では積極的に対応しています。ただし、その製作にあたっては、正確な診断が必要であり、本院では神経内科(睡眠センター)を先に受診していただきます。あるいは、他の医療機関にて検査済の場合には診療情報提供書を持参して歯科口腔外科に受診していただいても結構です。ちなみに口腔内装置の製作は保険適応であり、軽症、中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群での効果は60~70%程度です。
医療関係者の方へ
当然ですが、口腔領域に関して最大限に対応できるように研鑽を積むとともに、様々な医療分野との連携、情報共有を大切にしたいと考えています。特に昨今、注目しなければならないと考えるのはビスホスホネートなどの骨修飾薬(Bone modifying Agents:BMA)による顎骨壊死です。高齢になればほとんどの方が多かれ少なかれ歯科疾患を有しています。また、歯とは無関係に顎骨壊死が発症することも知られています。BMAを処方される先生と奇譚のない情報交換と治療を受ける方の十分な理解が重要と考えています。
臨床実績
2020年診療実績
- 初診患者数 1,941名
- 紹介患者数 772名 (他施設からのものに限る)
先天異常・発育異常 | 4 | |
外傷 | 軟組織損傷 | 66 |
歯の損傷 | 29 | |
顎骨骨折 | 38 | |
炎症 | 顎骨炎 | 23 |
歯性上顎洞炎 | 15 | |
インプラント周囲炎 | 0 | |
粘膜疾患等 | 口腔乾燥症 | 27 |
口腔粘膜疾患 | 86 | |
腫瘍等 | 腫瘍類似疾患(嚢胞等) | 53 |
良性腫瘍 | 34 | |
悪性腫瘍(口腔がん) | 6 | |
顎関節疾患 | 50 | |
神経性疾患 | 12 | |
唾液腺疾患 | 13 | |
歯の疾患 | 埋伏智歯・智歯周囲炎 | 371 |
歯周疾患 | 532 | |
周術期等口腔機能管理 | 441 |
埋伏智歯に関わるもの | 184 |
多数歯抜歯等 | 50 |
顎骨の炎症、蜂窩織炎 | 0 |
顎骨骨折 | 10 |
嚢胞・良性腫瘍 | 23 |
悪性腫瘍(口腔がん) | 6 |
その他 | 17 |