消化器がん(胃・食道・大腸・肝胆膵・肛門管がん)

消化器がんの治療に関して消化器外科・消化器内科と連携し、手術前後(周術期)の補助療法、局所進行がん、進行・再発がんに対して薬物療法および化学放射線療法を中心に治療を担当しております。消化器がんは食事に関わる部位にできるがんであり、病気そのものに対するケアと治療に伴う副作用を十分に管理しながら行うきめ細やかな診療が特に重要となります。ぜひ、薬物療法のエキスパートである腫瘍内科にご相談ください。近年、急速に薬物療法が複雑化しており、内視鏡治療(消化器内科)、外科的治療(外科)、薬物療法(腫瘍内科)、放射線治療(放射線治療科)が連携してベストな治療を考える必要があります。腫瘍内科は単に薬物療法を提供するのみならず治療計画全般に関われるように努めています。

●胃がん

胃がんに対する薬物療法の適応は術前もしくは術後に行われる補助療法と切除が難しい場合や術後に再発した胃がんに対する薬物療法とに大別されます。補助療法は術後の再発リスクを減少させるために行います。一方、進行・再発胃がんに対する薬物療法の目的は腫瘍縮小や症状の改善を始め、なるべく良いコンディションを維持しながら生活を支えることにあります。

術後胃がん:ステージII-IIIの場合、術後補助療法を行うことで再発のリスクが軽減できることがわかっています。S-1と呼ばれる内服薬が基本となります。S-1内服に加えて、オキサリプラチン(SOX療法)やドセタキセル(DS療法)を追加する方法もあります。S-1の代わりにカペシタビン(ゼローダ®)を使用する方法も選択されます。病状と効果、全身の状態、治療に対するお考えと副作用のバランスを考慮して計画を提案いたします。

局所進行胃がん:がんの拡がりのため初診時に手術が難しいと判断された場合や少数の遠隔転移がある場合には、導入化学療法を開始し、治療効果に応じてその後の切除や治療方針を検討する考え方があります。SOX療法の他、欧米で汎用され腫瘍縮小効果の高いFLOT療法(フルオロウラシル+オキサリプラチン+ドセタキセル)や腫瘍のタイプによっては分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も取り入れています。また、2025年のトピックスとして、術前/術後FLOT療法に免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブ(イミフィンジ®)を加えることでさらなる効果を得られることが示されました。本邦でも承認されることが期待されています。

進行・再発胃がん:胃がんの中にも特殊な物質や遺伝子変異などのパターンが個々の患者さんによって異なっている事がわかっており、それぞれの特徴にあった治療薬を選択することが重要です。具体的にはHER2(ハーツー)、PD-L1、マイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability:MSI)もしくはMMR(ミスマッチ修復タンパク)、クローディン(CLDN)18.2とよばれる因子を検査する必要があります。

薬物療法で使用する薬剤には抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬などがあります。

抗がん剤治療は一般的なSOX療法以外にもCAPOX療法、FOLFOX療法なども取りいれています。FOLFOX療法はオキサリプラチンの投与量が少なく、短期間で薬剤投与が完了し、点滴薬のみで構成されているため、病気や体調で内服薬が適さない、体調が十分ではない方に積極的に提案しています。これらの抗がん剤に分子標的薬もしくは免疫チェックポイント阻害薬を併用することが最も効果が

HER2陽性タイプの方には抗がん剤に分子標的薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン®)を併用した治療が奨められます。今後はさらにペムブロリズマブ(キイトルーダ®)と呼ばれる免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療が登場する予定です。HER2をターゲットとするトラスツズマブ・デルクステカン(エンハーツ®)は治療歴のあるHER2陽性胃がんの治療薬として重要です。

HER2陰性タイプの方PD-L1やCLDN18.2という物質の状況に応じて抗がん剤+免疫チェックポイント阻害薬もしくはゾルベツキシマブ( (ビロイ®)を併用します。ニボルマブ(オプジーボ®)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)が免疫チェックポイント阻害薬です。ゾルベツキシマブ(ビロイ®)はCLDN18.2とよばれる物質に結合して効果を発揮する新薬です。胃がんの30-40%程度の方が対象となる薬剤です。特に最初の投与は吐き気が出やすいことが知られているため、入院の上、嘔気や嘔吐といった副作用への綿密な対応を行います。

その他、パクリタキセル+ラムシルマブ(サイラムザ®)やトリフルリジン・チピラシル(ロンサーフ®)、イリノテカンなどの治療も提案いたします。また、私達は胃がんに関するさらなるよい治療を患者さんに届けるために臨床試験・治験にも多数参加しています。場合によっては重要な選択肢となることがあり、担当医からご提案いたします。

●食道がん

食道がんは遠隔転移や病気の広がりに応じて内視鏡、手術、化学放射線療法、薬物療法などが選択されます。薬物療法は手術の前後や放射線治療との併用、また、周術期から進行・再発時まで幅広く使用されています。内視鏡医、外科医、腫瘍内科医、放射線治療医などの連携、栄養療法、支持療法が重要であり、十分な経験のある施設での治療が必要な疾患です。

切除可能食道がん(周術期):標準治療である術前DCF療法(ドセタキセル+シスプラチン+フルオロウラシル)を基本として、シスプラチンが使えない場合はオキサリプラチンベースのレジメン(FLOTあるいはFOLFOX療法)が選択されます。術後補助療法に関しては、手術の結果に応じてニボルマブ(オプジーボ®)療法が保険診療で用いることができます。

切除可能(食道温存希望):患者様が手術を希望されない場合は化学放射線療法を行います。同時に行う薬物療法としては、FP療法(フルオロウラシル+シスプラチン)を基本とし、シスプラチンが使用できない場合にはオキサリプラチンベースの治療(FOLFOX療法)を選択します。

局所進行(手術が難しいが遠隔転移がない、限られている状況):DCF療法・FLOT療法による導入化学療法あるいは化学放射線療法を使用しており、手術が可能となった場合は積極的に手術を行うことをお勧めしております。

進行・再発食道がん:薬物療法を主体に治療を行います。抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法(FPあるいはFOLFOX療法+ニボルマブ(オプジーボ®)あるいはFP療法+ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)もしくはチスレリズマブ(テビムブラ®)や免疫チェックポイント阻害薬のみ(イピリムマブ(ヤーボイ®)+ニボルマブ(オプジーボ®)を軸に、免疫チェックポイント阻害薬が使えない場合は抗がん剤のみの治療(FP療法、FOLFOX療法)となります。飲み込みにくさ(食道の通過障害)がある場合は症状緩和目的に放射線照射やステント留置を行います。また、二次治療においてはパクリタキセル、S-1などによる治療を行っています。

●大腸がん

大腸がんの薬物療法は、術前・術後に行う周術期補助療法と、切除不能・転移あるいは再発した場合に行う薬物療法があります。周術期補助療法は、主に再発リスクを下げる目的で行われ、なるべくスケジュールを遵守しながら治療を完遂することが重要です。一方で、進行・再発の場合に行われる薬物療法は、腫瘍を縮小させてがんによる症状を緩和させることと、日常生活を維持することのバランスが大切になります。周術期補助療法:一部のステージIIとステージIIIは術後補助療法の有用性が判明しています。カペシタビンやUFT/ロイコボリンと呼ばれる薬剤の内服治療の他、CAPOX療法(カペシタビン(ゼローダ®)+オキサリプラチン)、FOLFOX療法も選択されます。いずれの治療方法がよいかは、病気の状況や体調、治療スケジュールや副作用に対する考え方で変わってきますので、担当医と相談しつつより適切と思われる治療法を提案させていただきます。また、局所進行直腸がんに対しては適応や意義を外科と共有しつつ、術前化学療法・化学放射線療法を組み合わせた集学的治療を提案することがあります。

進行・再発大腸がん:殺細胞薬と分子標的薬(血管新生阻害薬や抗EGFR抗体薬、あるいは抗HER2薬)の併用や免疫チェックポイント阻害薬を使用します。MSI、RAS/BRAF遺伝子変異、HER2蛋白の発現の有無などを確認して個々人に応じた薬剤選択を提案します。

抗がん剤はSOX・S-1+イリノテカン療法、CAPOX・CAPIRI療法(カペシタビン(ゼローダ®)+イリノテカン)、FOLFOX・FOLFIRI療法、FOLFOXIRI(フルオロウラシル+オキサリプラチン+イリノテカン)療法などから選択されます。治療スケジュールや副作用の特徴が異なりますので、それらを理解していただいた上で患者様のご希望を聞きながら担当医と相談して治療法を決定しています。これらの抗がん剤に遺伝子変異の状態をみて血管新生阻害薬(ベバシズマブ(アバスチン®)、ラムシルマブ(サイラムザ®)、アフリベルセプト(ザルトラップ®))または抗EGFR抗体薬(セツキシマブ(アービタックス®)、パニツムマブ(ベクティビックス®))を併用します。治療の段階に応じて、トリフルリジン・チピラシル(ロンサーフ®)+ベバシズマブ(アバスチン®)、レゴラフェニブ(スチバーガ®)、フルキンチニブ(フリュザクラ®)などの治療も提案しています。

MSIが高頻度に認められる場合(MSI-high)は、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)単剤療法、あるいはニボルマブ(オプジーボ®)+イピリムマブ(ヤーボイ®)併用療法を提案します。HER2陽性(かつRAS/BRAF野生型)の場合は、トラスツズマブ(ハーセプチン®)・ペルツズマブ(パージェダ®)が使用されます。またBRAF V600E変異を有する場合は、エンコラフェニブ(ビラフトビ®)±ビニメチニブ(メクトビ®)+セツキシマブ(アービタックス®)併用療法を提案しています。

●膵臓がん

切除不能進行・再発膵臓がん:ゲムシタビン(ジェムザール®)+ナブパクリタキセル(アブラキサン®)併用療法、FOLFIRINOX療法(フルオロウラシル+イリノテカン+オキサリプラチン)、S-1単剤療法、ゲムシタビン単剤療法、ゲムシタビン+エルロチニブ(タルセバ®)併用療法があります。二次治療でナノリポソーマルイリノテカン(オニバイド®)が使用可能となり、これまでより治療の幅が広がりました。BRCA遺伝子変異がある場合は、オラパリブ(リムパーザ®)療法も選択肢となります。KRASG12C遺伝子変異を有する場合ソトラシブやアダグラシブが期待されており、承認が待たれます。

局所進行がんなど治療開始時に切除不能と判断された場合であっても、状況(腫瘍のサイズや部位など)と薬物療法の効果によって切除可能になることがあります。また、S-1を用いた化学放射線療法を検討することもあります。当院には薬物療法の専門医と膵臓・肝臓外科の専門医、放射線治療専門医いずれも在籍しており、患者様の状態に応じて、各専門医が綿密に連携しつつ治療を計画し提案しています。

●肝細胞がん

肝細胞がんの治療は手術、ラジオ波焼灼療法、血管内治療、放射線治療の他、薬物療法があります。薬物療法の選択肢が近年増えつつあり、免疫チェックポイント阻害薬+血管新生阻害薬(アテゾリズマブ(テセントリク®)+ベバシズマブ(アバスチン®))療法、レンバチニブ(レンビマ®)療法の他、2022年にはデュルバルマブ(イミフィンジ®)+トレメリムマブ(イジュド®)療法が加わりました。その他、レゴラフェニブ(スチバーガ®)、ソラフェニブ(ネクサバール®)、ラムシルマブ(サイラムザ®)治療が選択肢としてあげられます。2025年4月に米国で承認されたニボルマブ(オプジーボ®)+イピリムマブ(ヤーボイ®)併用療法は本邦では2025年4月現在、承認申請済みであり、承認が待たれます。いずれの治療が最適かは、消化器外科・消化器内科、血管内治療の専門医らと相談のうえ、患者様に応じて計画していきます。薬物療法に加えて血管内治療を併用する場合、放射線治療を組み合わせるなど多面的な角度で検討し提案するようにしています。

●胆道がん(胆嚢がん・胆管がん・十二指腸乳頭部がん)・肝内胆管がん

進行・再発胆道がん:薬物療法が主体となります。肝内胆管がんは原発性肝がんに含まれますが、その性質から胆道がんと同様の薬剤選択を行います。

GC療法(シスプラチン+ゲムシタビン)、S-1療法が中心となります。特にGC療法に免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブ(イミフィンジ®)やペムブロリズマブ(キイトルーダ®)を併用することでより治療効果を高めることが期待できるようになりました。また、FGFR2融合遺伝子陽性の場合は、ペミガチニブ(ペマジール®)、フチバチニブ(リトゴビ®)、タスルグラチニブ(タスフィゴ®)が使用可能であり、積極的な検査をおすすめしております。

●肛門管癌(SqCC)限局期

5-FU+マイトマイシンC併用化学放射線療法が推奨されております。5-FU+CDDP併用CRTとのランダム化試験において、5-FU+MMCレジメンはOS、PFS、LFS、肛門温存率のいずれも優れておりました。血管外漏出をすると起壊死性であること(PICC留置を推奨しています)、および血液毒性に注意を要します。高齢者では5-FUを800mg/m2程度に減量することも考慮しております。化学放射線療法後の地固め療法・維持化学療法は行わない方針としております。肛門管癌の治療においては、放射線による粘膜障害なども起きうるため、保湿・疼痛コントロール・栄養療法などの支持療法が非常に重要となります。治療開始前・治療中・治療終了後を通して、多職種でサポートを行っております。