遺伝診療科の概要

 遺伝診療科では、遺伝子や染色体(ゲノム)の変化によって起きるさまざまな病気や体質をもつ患者さんとそのご家族に対して、臨床遺伝学を専門とするスタッフがチームとして診療と遺伝カウンセリングを行っています。臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが疾患に関する最新の情報提供とその情報をもとに患者さんやご家族の不安を軽減できるよう遺伝学的・心理的側面から支援を行います。また各疾患の診療を担当する専門家の医師と連携を取り、総合的に患者さんとその家族をサポートできる体制を整えています。

 

特色

  遺伝カウンセリングでは、遺伝性疾患について不安や悩みをお持ちの患者さんとそのご家族に対してご相談内容やご家族の背景を丁寧におうかがいし、患者さんとスタッフの双方のコミュニケーションを大切にしています。通常の診療よりも時間をかけ、リラックスした雰囲気で疾患や遺伝に関するご相談を伺っております。遺伝性疾患の可能性がある場合は、その疾患の特徴・診断・検診の方法などについて説明し、遺伝学的検査を行うかどうか、検査の利点・欠点を含め一緒に検討します。

 

どのような相談ができますか

  • 自分のがんが子どもに遺伝するかどうかは、遺伝子検査を受ければわかりますか?
  • 婚約者の家族に病気を持った人がいます。結婚したら私たちにも同じ病気の子どもが生まれるでしょうか。
  •   いとことつき合っていますが、いとことの結婚ではどんなことがあるのか知りたいです。 
  •  上の子どもが先天性の病気でした。次の子どもは大丈夫でしょうか?
  •   自分の疾患について、それが子どもに遺伝するかどうか知りたいです。
  •   家族に誰もいないのに、子どもが遺伝の病気と言われたのですが、どういうことでしょうか?
  •   幼いころ遺伝する病気かもしれないといわれましたが当時はわからないままでした。はっきりさせるために遺伝子検査を受けることはできますか。
  •   自分の病気は、遺伝子が関係する病気と聞きました。将来どのようになるか詳しく知りたいです。

 

 

どのような病気が対象ですか

 遺伝性腫瘍をはじめ、神経・筋疾患、耳鼻科疾患など遺伝性疾患全般を対象としております。眼科と連携し、網膜芽細胞腫の遺伝カウンセリング・発症前診断に力を入れています。また、がんゲノム医療連携病院であり、がんゲノム医療にも積極的に関わっております。当院は出生前診断には対応しておりませんが、必要な場合は他院をご紹介いたします。 診断に必要な遺伝学的検査は、保険適用検査、自費検査、研究的検査から適切なものをご提案させていただきます。

 

予約方法

遺伝カウンセリング外来は完全予約制です。ご予約の申し込みは電話またはメールフォームでの受付となります。詳細はこちらをご覧ください。

 

遺伝性腫瘍と小児・AYA世代のがんについて

  がんのおよそ5-10%に遺伝素因が関わっており、それらを遺伝性腫瘍と呼んでいます。「家系内に複数のがん罹患者がいる」、「複数のがんの既往がある」、「若年発症である」などの場合、遺伝性腫瘍の可能性が高くなります。遺伝性腫瘍を正しく診断し、その情報を有効に活用すれば、治療に直結するものもありますので、遺伝学的検査を受けられて病的変異が判った場合、計画的ながん検診など必要な検査や予防的治療について情報を提供し、適切な検査・治療計画をご提案します。ご家族を含めて、当院において長期的なフォローアップを受けて頂くことが可能です。 
小児・AYA(Adolescent and Young Adult思春期・若年成人)世代のがんの一部は、遺伝性腫瘍のことがあります。小児・AYA 世代の方は、進学・就職・結婚・妊娠といった人生において重要な出来事を控えていますので、がんが遺伝するかそうでないか、もしその場合どのような対応ができるか一緒に考えていきます。

 

代表的な遺伝性腫瘍

疾 患 名 かかりやすいがんなど
遺伝性乳がん卵巣がん症候群 乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、男性乳がん
リンチ症候群 大腸がん、子宮内膜がん、胃がん、胆道がん、尿路がん、卵巣がん
リー・フラウメニ症候群 乳がん、軟部肉腫、脳腫瘍、副腎皮質がん、骨腫瘍
多発性内分泌腺腫症Ⅰ型(MEN1) 下垂体腫瘍、膵消化管神経内分泌腫瘍、胸腺・気管支神経内分泌腫瘍、皮膚腫瘍
多発性内分泌腺腫症Ⅱ型(MEN2) 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、
家族性大腸腺腫症 十二指腸腺腫、がん、デスモイド腫瘍
カウデン症候群 甲状腺がん、乳がん、子宮内膜がん、
ポイツ・イエガース症候群 結腸直腸がん、胃がん、すい臓がん、乳がん、卵巣がん
フォンヒッペルリンドウ病 中枢神経血管芽腫、網膜血管腫、腎細胞がん、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍
遺伝性びまん性胃がん 胃がん、乳がん
遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群 子宮筋腫、腎がん(乳頭状腎細胞癌type2)、皮膚平滑筋腫
遺伝性乳頭状腎細胞癌 腎がん(乳頭状腎細胞癌type1)

 

診療実績

疾患別の患者数

疾患名 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
遺伝性腫瘍
網膜芽細胞腫
(Retinoblastoma: RB)
4 7 8 11 11
遺伝性乳がん卵巣がん
(Hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)
3 15 15 12 9
リー・フラウメ二症候群
(Li-Fraumeni syndrome: LFS)
0 1 5 4 6
フォン・ヒッペル・リンドウ病
(Von Hippel-Lindau disease: VHL)
0 0 0 1 3
リンチ症候群
(Lynch syndrome: LS)
4 4 3 3 2
バート・ホッグ・デュベ症候群
(Birt-Hogg-Dubé syndrome: BHD)
0 0 1 0 0
ポイツ・イエガース症候群
(ポイツ・ジェガース、Peutz-Jeghers syndrome: PJS)
0 0 1 0 0
遺伝性びまん性胃がん
(Hereditary diffuse gastric cancer: HDGC)
0 0 1 1 0
神経線維腫症2型
(Neurofibromatosis type2: NF2)
0 0 0 1 0
不明がん 0 0 2 1 2
耳鼻科疾患
難聴 1 1 1 0 1
循環器・呼吸器疾患
オスラー病
(Hereditary hemorrhagic teleangioctasia: HHT)
0 1 3 1 0
ウィリアムズ症候群
(Williams syndrome: WS)
0 1 1 0 0
骨・結合織疾患
マルファン症候群
(Marfan syndrome: MFS)
0 1 0 1 0
裂手症 0 1 0 0 0
皮膚疾患
色素失調症 0 0 3 0 0
神経・筋疾患
筋強直性ジストロフィ― 
(Myotonic dystrophy Type1: DM1)
2 0 0 0 2
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
(Facioscapulohumeral muscular dystrophy: FSHD)
0 1 0 0 0
筋委縮性側索硬化症 
(Amyotrophic lateral sclerosis: ALS)
1 1 1 0 0
脊髄小脳変性症 
(Spinocerebellar degeneration: SCA)
0 0 1 0 0
球脊髄性筋萎縮症 
(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy: SBMA)
0 1 0 0 0
脊髄性筋萎縮症 
(Spinal muscular atrophy: SMA)
0 1 0 0 0
Hereditary myopathy with early respiratory failure: HMERF 0 1 0 0 0
シャルコー・マリー・トゥース 
(Charcot-Marie-Tooth: CMT)
0 0 0 1 0
先天代謝異常
ファブリー病
(Fabry Disease)
0 0 0 0 1
嚢胞性線維症
(Cystic fibrosis: CF)
0 0 1 0 0
アルカプトン尿症 0 1 0 0 0
ミトコンドリア病 0 1 0 0 0
血液・免疫不全
原発性免疫不全症候群 0 0 0 0 1
染色体疾患
染色体相互転座 1 1 0 0 0
その他
ヌーナン症候群
(Noonan syndrome)
0 0 0 0 1
精神発達遅滞 1 0 1 0 0
多因子疾患
自閉症スペクトラム
(Autism Spectrum Disorder: ASD)
0 0 0 1 1
食道狭窄 0 0 0 0 1
ぶどう膜炎、体軸性脊椎関節炎 0 0 0 1 0