腫瘍内科の概要

 腫瘍内科はがんの診療に特化した内科の一分野です。臓器横断的ながん診療に取り組んでいます。腫瘍内科の仕事は下記のように多岐にわたります。

  • 最善のがん薬物療法(抗がん剤、免疫療法、分子標的療法、ホルモン療法など)を提供すること
  • チーム医療を通じて十分な支持療法・緩和ケアを提供すること
  • 診断、治療(手術、放射線治療、薬物療法など)から最適な組み合わせを考えるために各診療科の橋渡し役となること

 全国的に腫瘍内科医が不足しているなか、当科は数少ないあらゆる臓器のがん診療に対応が可能な腫瘍内科として活動しています。がんに関すること、特に診断や治療、薬物療法に関して腫瘍内科が役に立てることがあれば、遠慮なくご相談ください。

 近年、各臓器のがん薬物療法は新薬の登場により個別化医療が進む半面、複雑化しており、がん薬物療法の専門家のもとで治療を受けることが望まれます。当院では院内での協力体制の結果、1160名(2020-2024年)の通院化学療法を腫瘍内科が担当し、成人固形腫瘍のほぼ全ての領域に腫瘍内科が関わるようになっております。

 当院はがん診療連携拠点病院・がんゲノム医療連携病院に指定されており,消化器がん(胃・食道・小腸・大腸・肝臓・胆道・膵臓など)、呼吸器(肺・縦隔)、乳がん、婦人科がん(卵巣・腹膜・子宮体部・頸部)、泌尿器がん(腎臓・膀胱・尿管・陰茎・精巣)、血液がん、脳腫瘍、眼科腫瘍、頭頸部がん(口腔・舌・咽喉頭・唾液腺・甲状腺など)、皮膚がんに対応できる体制を整えています。この他、原発不明がん、重複がん、精巣外胚細胞腫瘍、肉腫やその他の希少がんも含めた幅広いがんの治療に取り組んでいます。また、救命センターをもつ総合病院の強みを生かして、がん以外の合併症(糖尿病、腎臓病、心臓病、脳梗塞、自己免疫疾患など)がある方の治療にも積極的に取り組んでいます。地域の医療機関の他、がん専門施設からもたくさんの患者さんをご紹介いただき診療しています。

特色

名古屋医療センターの腫瘍内科の特徴、理念を下記にまとめました。

  • 診療科の枠・施設の枠を超えて迅速な診断、最適な治療法を考えます

 腫瘍内科は各診療科とカンファレンス(病気の診断、治療に関する相談会)、キャンサーボード(各領域の専門家が集まり対応が難しいケースの対応を検討する会)を行い最適な治療計画を検討しています。特に、診断に関わる医師(内視鏡やCT・MRIなどの専門家、がんを顕微鏡レベルで診断する病理診断医)、外科系診療科(手術を担当する医師)、放射線治療科(放射線治療の専門家)、緩和ケアチームとは定期カンファレンスの枠を超え随時検討を行っています。

 必要時には院内外・国内外を問わず最新の情報や意見を集め診断・治療を進めます。名古屋大学医学部附属病院とのがんゲノム医療に関する検討会(エキスパートパネル)などを通じて診療の質の向上を心がけています。また、患者様が希望された場合にセカンドオピニオンの手配をサポートすることはもちろんのこと、患者さんの利益になると判断された場合は自施設にこだわらず最適な施設をこちらからご紹介いたします。

  • 患者様の生活や個別性に配慮した医療の実践

 これまでに行われた研究や最新の学会報告などのデータによって裏付けられた標準治療(最も治療効果が得られる可能性が高いその時点での最適な治療法)を基本としつつ、患者様の年齢や仕事、家庭の状況などを踏まえて希望にそった治療を提案します。また、当院はがんゲノム医療連携病院に認定されており適応となる方には保険診療で遺伝子パネル検査の実施が可能です。

  • 総合病院のなかにある腫瘍内科であること

 当院は救急医療・総合診療体制を擁する総合病院です。がん診療は経過中・治療中に救急対応が必要となること(急な発熱や呼吸困難、緊急手術を要する問題)や幅広い副作用対策(心臓疾患、肺炎、自己免疫疾患、免疫関連有害事象など)が必要になることがあります。様々な臓器の問題(心臓、脳・神経、糖尿病、リウマチなど)に対応できるバックアップ体制や24時間365日の救急医療が充実していることは安心・安全ながん治療を受けるうえで極めて重要です。

  • よりよいがん診療や新薬の承認に貢献する臨床試験・治験への参加

 当院ではすでに多くの臨床試験や治験に参加してきた実績があり研究施設としての側面もございます。これは、最新の知見を取り入れ、新薬の開発動向をキャッチアップするためにも重要なことと考えております。そのうえで当科では患者様の治療選択肢を増やすため、将来のがん診療の発展に貢献するために臨床試験や新薬の治験に取り組んでおります。対象となる場合は、臨床試験について提案することがございますのでご協力のほどよろしくお願いいたします。

診療

【診療内容】
 腫瘍内科専従医、腫瘍内科・緩和ケア科の兼任医師(がん薬物療法専門医を含む)で診療にあたっています。現在、成人の悪性腫瘍であれば種類を問わず原則対応可能ですので、お気軽にご相談下さい。手術前後の補助薬物療法、進行・再発がんへの治療など幅広く行っています。放射線治療科と連携した化学放射線療法の実績も豊富です。治療開始前になるべく短期間で十分な全身評価、画像診断、病理診断、遺伝子検査などを実施して実際の治療計画を提案いたします。また、緩和ケアチームとの連携を密にし、外来・入院中を問わず必要なケアがタイムリーに届くように努めております。

診療実績のある代表的ながんの種類と薬物療法の概要

 どのがん種においても近年のがん治療の進歩は著しく、新しい薬剤や投与法が盛んに導入されています。共通して言えることは ①がんの特徴を詳しく調べること(遺伝子検査、免疫染色など)、 ②体の状態を評価すること、 ③がんの拡がりを把握すること、 ④それぞれの専門家(手術=外科系診療科、検査、診断、薬物療法=腫瘍内科、放射線治療=放射線治療科、緩和ケア、リハビリや栄養療法など)が協力して一人の患者様の診療に関わることです。ここでは各種がんについて薬物療法を中心にまとめています。

乳がん詳細(リンク)

消化器がん(胃・食道・大腸・肝胆膵・肛門管がん) 詳細(リンク)

肺がん・縦隔腫瘍詳細(リンク)

婦人科がん (子宮体がん・子宮頸がん・卵巣がん・胚細胞腫瘍) 詳細(リンク)

泌尿器がん(膀胱・前立腺・腎臓・精巣腫瘍) 詳細(リンク)

頭頸部がん詳細(リンク)

原発不明がん詳細(リンク)

肉腫、性腺外胚細胞腫瘍、悪性黒色腫など希少がん、眼科領域のがん(脂腺がん・結膜/脈絡膜メラノーマ・メルケル細胞がんなど)詳細(リンク)

重複がんの対応(2つ以上のがんを患っている方)

遺伝子パネル検査などに基づいた個別治療が可能ながん(マイクロサテライト不安定性を有するがん、NTRK融合遺伝子変異やBRAF遺伝子変異を有するがんなど)

(上記以外のがんであってもできるだけ、対応するよう心がけております)

【外来化学療法室】

 抗がん剤治療の大半は通院で治療が可能です。外来化学療法室には腫瘍内科医、看護師、薬剤師が常駐しており随時情報を共有しながら診療しております。腫瘍内科の診察室は外来化学療法室内に設置されております。これにより患者様の移動の手間を減らし、スタッフ間の連携強化をはかるとともに抗がん剤投与中の問題にも速やかに対応できるように工夫しております。医師の診察のみでは聞き取れなかった生活の困りごとや副作用を看護師が確認し、医師へフィードバックする、薬剤師が治療薬や内服薬の確認をし、適切な使用法のアドバイスや支持療法について医師と相談するなどキメの細かいケアを目標にしております。

【チーム医療の重視】

 実際の診療は腫瘍内科医師に加えて、がん化学療法認定看護師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和ケアチームからなるチーム医療を最重要視しております。外来化学療法は日常生活を続けながら、治療が受けられる点でメリットは大きいです。反面、自宅にいる間の副作用対策に関して理解をしていただいたうえで治療を受けることが重要となります。その際、どこに注意したらよいのか?困ったときにどこに相談すればよいのか?を医師だけでなく、看護師、薬剤師など多職種で治療をサポートする体制が整っております。また、各種制度の申請、経済的な不安、自宅療養に必要な訪問診療・看護・介護の利用などは相談支援センター(ソーシャルワーカー)でのサポートが可能です。その他、管理栄養士(当科では栄養チームと連携して、評価や食事のアドバイスを治療の一部として取り入れ役立てております)、臨床心理士がチームのメンバーとして参画しております。


医療関係者の方へ

医療連携について

 ご参考までに当科の対象疾患、得意とする領域を列記いたしますが、悪性腫瘍と診断されていれば原則的に全ての方を対応させていただきます。悪性疾患が疑わしい場合、確定診断前のご紹介でも問題ございません。検査・生検から治療まで責任をもって手配いたします。

各種がんの薬物療法のご相談・ご紹介 (臓器を問いません)
乳がん、消化管がん、婦人科がん、原発不明がんは特に注力しております
化学放射線療法の適応疾患(肺・食道・頭頸部・肛門管がんなど)。
・胚細胞腫瘍、肉腫などの希少がんは治療計画が特に重要です。
(疑い例・初回治療前・生検前からのご紹介が望ましいことが多いです)
・重複がん
・免疫チェックポイント阻害薬,複合免疫療法(ニボルマブ(オプジーボ®)・イピリムマブ(ヤーボイ®)併用療法など)、トラスツズマブ・デルクステカン(エンハーツ®)療法など慎重な管理や施設要件がある薬剤での治療
・がん薬物療法に関するセカンドオピニオン

当科を初めて受診される場合、地域医療連携室 を通じて予約を取得してください。事前に検査データ等を提供いただけますと助かります。医療機関からはお電話でのご相談もお受けしております。

地域医療連携室
受付時間:平日:8:30-17:00
TEL:直通052-951-1206、もしくは代表052-951-1111から内線2231

教育・研修

【講習会】毎年、「がん化学療法・放射線治療に関する研修会」を開催しております。医師のみでなくコメディカルの方を含む多職種からの参加される方も多く、また院内だけでなく院外から参加される方もおられます。前半にレクチャーを行い、後半はチームに分かれて症例検討を行い、化学療法・放射線治療の概要を理解する半日のコースです。ぜひ、ご参加ください。また、緩和ケア講習会(PEACEプロジェクト)も定期開催されていますのでこちらもよろしくお願いします。

【講演会】院内でがん診療、化学療法に関連した講演会が開催されています。

【常勤医師・専修医/後期研修医】今後ますます高度、複雑化していくがん診療・がん薬物療法に貢献する熱意のある方を募集しています。腫瘍内科での研修を希望する方は下記リンクを御覧ください。初期研修医、内科専攻医(内科専門医コース)の方も腫瘍内科のローテーションが可能です。内科専攻医は関連する内科の研修完了後、腫瘍内科にFIXしてさらに研修継続が可能です。当院内科専攻医は院外研修先として愛知県がんセンターや国立がん研究センターでの研修が選択可能です。新専門医制度開始以降、院内の初期研修医から2名、院外から3名の医師が腫瘍内科専門医を目指して当院の内科専攻医プログラムに登録し研修をしております(2025年4月現在)。外・内科専門医、外・内科認定医を取得している方は腫瘍内科単独の研修が可能です。当院は日本臨床腫瘍学会の認定教育施設であり、過去にがん薬物療法専門医を12名輩出しています。

各診療科情報(腫瘍内科)
初期研修医の方へのメッセージ
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後期研修医の方向けの詳細
業績・学会発表